私は、某病院の皮膚科で自由診療の美容部門を担う仕事に就いているのだけど、そこには色んな方たちが日々やってくる。
時には、育児と仕事の両立の疲れを癒しに、また時には疾患の治療として患者様が・・
また時には、今の自分を脱却したいと美の追及をし始めたキャリアウーマンが・・
また時には、ふと覗き込んだショーウィンドウに映る自分の顔を見た瞬間に絶望して駆け込んでこられた私と同世代の女性・・など、色んな背景を抱えたお客様がドアを叩くのだけど、ある日、肌に優しそうなコットン素材のアイボリーの帽子を目深にかぶり、その女性(ひと)はやってきた。
カウンセリングに入る前の雑談で、こちらにお見えになったきっかけをお尋ねしていたその時、
「私、爆弾を抱えてるんですよね。あとどの位生きていられるか分からない・・」
後から聞いてみると、その女性(人)は、当院に癌の治療で通院している患者様だった。
「一度摘出手術をして、また転移。癌の治療ってとても辛いし、きついんですよ。だから気分転換に」
ニコリと笑うその表情に全くと言って何の陰りもなければ、切迫感も無い。すらりと伸びた白い指先の爪はきれいにラウンドカットされていてベージュピンクのネイルカラーが目に鮮やかだった。
ご本人の希望は、抗癌剤投与のせいで出てきたシミを薄くしたいというものだった。最適の施術の内容、ホームケアの選択、お手入れの仕方などをお伝えしてみたが、説明の必要が無いほど、美容に関しての知識が豊富なようだった。
今までエステにも通っていらっしゃったようで、その知識には少し驚きを隠せなかった。
「私、ブスだけど、いやでしょう。気持ちまでブスになってしまうのは。だから、手をかけるんですよ。あ、女性の写真集とか見たことあります?買ってまで見ないでしょう。私持ってるんですよ、聖子ちゃんとか、叶野京子とか、菅野美穂とか。興味あります?持ってるのでお貸しますよ。何ていうか、ヌードなんかも美しいんですよね」
美しくなりたがる女性にはいっぱい会ってきたけど、大体の女性は他人から見られた視線を気にして自分に磨きをかけるというものだった。自分の体に向き合うというよりは、他人の目を通しての自分を高めたいというふうに。媚びる訳ではないのだろうけど。
その女性(ひと)は他人の美しさも認め、自分自身の顔や体と向き合い、語りかけ、自分を大切にしている。それは日々前向きに生きるエネルギーや時間をとても大切にしているからだろう。女性としてこの世に生を受けたことを純粋に感謝しているように思えた。
病院の前の池に鯉が放流してあるらしく、治療の帰りにいつもそこで買ってきたパンをあげるのが楽しみだとニコリと笑い、その女性は病院を後にした。
キラキラと水面に光る夕日と、勢い溢れる水しぶきをあげながら集まる鯉に、買ってきたパンをちぎって放るその女性の後ろ姿を見つめながら、何とかして希望の結果が出せるように・・・と、心に想いを刻んだ一日だった。
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